昨今話題の老後2000万円問題。
6月3日に発表された金融庁の金融審議会報告書で「公的年金だけでは、老後30年で2000万円不足する」との試算が発表され、生活者の不安をかきたてています。
節約志向が進めば、美容に関する費用に対しても財布のひもが一層かたくなります。客単価が下がるどころか、そもそも美容室に行かないという人が増える可能性もあります。
ホットペッパービューティーアカデミー(運営:株式会社リクルートライフスタイル)が全国の15~69歳の男女それぞれ6600人を対象に実施した「美容センサス2019年上期 美容室・理容室編」から、美容室の利用経験率と年間の利用率を見ていきます。
美容室の利用率は女性8割超、男性3割超
まず初めに「今までに美容室に行ったことがある」という人の割合を表す利用経験率を確認すると、女性95.1%、男性53.4%。
女性はほとんどの人が、男性も半数以上の人が美容室に行ったことがあるという結果に。
女性については10代、20代は減少するも30代は前年比2.0ポイント増。男性についても10代、20代は減少、一方で40代が前年比7.0ポイント増、30代は同3.6ポイント増でした。
それでは「この1年間に美容室に行ったことがある」という人の割合を表す利用率はというと、女性が86.0%(前年に同じ)、男性が34.9%(前年比1.8ポイント増)。
8割を超える大半の女性が美容室を利用しているとはいえ「以前は美容室に行っていたが、今は行っていない」という人が1割ちかくいるのは注視すべき事柄です。
また、美容室を利用している女性であっても、15.3%は年に1回しか利用していません。
2019年の平均は4.47回で、前年にほぼ同じ。その内訳は「2~3回」の利用が3割ともっとも多く、「4~5回」(25.1%)、「6~11回」(21.2%)、「1回」(15.3%)、「12回以上」(7.4%)と続きます。
直近7年間でもっとも変化したのは、年に1回だけ利用する層。2013年上期の調査の8.1%から2倍ちかく増えています。
ネットにはセルフカットの情報があふれている
美容室を利用しない、もしくは年に1回程度という利用頻度の低下は、暗い髪色のダウンスタイルが増えたことが大きいと思われますが、セルフカットも見逃せない要因です。
ひと昔前とは異なり、いまはセルフカットの仕方が簡単に調べられます。
ビュートピア編集部で行ったGoogle検索の結果は次の通りです(2019年6月24日調べ)。
キーワード | 件数 |
セルフカット | 31,100,000 |
セルフカット 女性 | 13,200,000 |
セルフカット 動画 | 9,550,000 |
セルフカット 女性 ロング | 8,020,000 |
セルフカット 女性 ショート | 6,160,000 |
セルフカット 女性 バリカン | 1,170,000 |
セルフカット 女性 ボブ | 913,000 |
セルフカット 女性 セミロング | 458,000 |
「セルフカット」は、なんと3110万件。上位には「セルフカットで1年で約6万円の節約になる」などの節約術やセルフカットに必要な道具の選び方についての記事が並びます。
ただし、この検索結果には犬や猫のトリミングも含まれるため「セルフカット 女性」に絞ると、1320万件。それでも多いですね。
「セルフカット 動画」でのキーワード検索が955万件、「セルフカット」での動画検索が60万2000件と、動画も豊富です。現役美容師さん監修の動画がわかりやすく人気が高いようです。
また「セルフカット 女性」と入力すると、ロング、ショート、バリカンなどの検索予測キーワードが表示されます。バリカンというと小さな子供の髪を刈るイメージしかなかったという人も、バリカンを使った大人女性のセルフカットの方法があることを知り、すぐに調べることができてしまいます。
なお、インスタグラムでも「#セルフカット」のハッシュタグを付けた投稿が6万4911件あります(犬猫のトリミング含む)。
意識の変化。当たり前が当たり前でなくなる?
いまは「美容室で髪を切るのが当たり前」という意識の人が大半ですが、当たり前が当たり前でなくなる時が来るかもしれません。
「給与が増えない」「税金が上がって家計が苦しい」「老後に備えて貯金をしなくては不安」と思う人が増えていったら「美容室で髪を切るのはぜいたく」という風潮になってもおかしくないのです。
たとえば、自動車の給油はガソリンスタンドの従業員に全部お任せするのが当たり前でしたが、規制緩和の流れで1998年に消防法が改正されてセルフ式スタンドが登場するとフルサービスのガソリンスタンドは半減しました。最近では、スーパーやコンビニでレジのセルフ化が進んでいます。
「美容室=髪を切るところ」という位置づけのままでは、セルフ化が進めば衰退してしまいます。「美容師さんは、自分では気づいていないけど似合うデザインを提案してくれる」「美容室はヘッドスパもしてリフレッシュするところ」「定期的に頭皮や肌のチェックをしてもらえるところ」などの付加価値がこれまで以上に重要になっていくのではないでしょうか。
実際、化粧品専門店や訪問販売では、計測機器を用いたスキンチェックとカウンセリングが標準的なサービスになっています。
ポテンシャルの高いメンズ市場
男性の利用経験率と利用率の差は、女性よりもさらに大きく18.5ポイント。「美容室に行ったことはあるけれど今は行っていない」という人が全体の2割ほどもいます。
調査では理由を明らかにしていませんが、よく耳にするところでは「美容室に行ったが雰囲気が合わず床屋に戻った」「おしゃれなバーバーに変えた」などでしょうか。
ちなみに、男性のセルフカットについては「セルフカット 男性」が1060万件、「男性 セルフカット ツーブロック」が68万30000件でした。
「美容室は入りづらい」「行ってみたけど居心地が悪かった」という男性客に来てもらうためには、どうしたらいいでしょうか。
- 「メンズカット」の文字をメニューに入れる
- 男性モデルの写真をホームページや予約サイトに載せる
- 男性客のニーズが高い頭皮ケアや育毛メニューに入れる
- 男性客が割引になる「メンズデー」を設ける
これだけでも男性客にとっては心理的ハードルが下がります。
未経験者や離脱者が多いということは、美容室にとって男性客はポテンシャルの高い市場ということです。従来通りでは経営がむずかしい時代だからこそ、ぜひ試してみてください。