“おばあちゃんの原宿”と呼ばれる東京・巣鴨に、シニア世代の心をつかんで離さない美容室がある。
その始まりは写真館。以後、美容室、洋品店、ネイルサロン、エステティックサロンとシニア女性をユーザーに横展開している。全体売上の6割がBtoBビジネスのため、事業基盤は盤石だ。
そんな「えがお美容室」の創業者は、美容師ではなく元ファッションスタイリスト。運営会社であるサンクリエーションの代表取締役を務める太田明良さんに、なぜシニアなのか、誕生秘話と事業戦略を聞いた。
①「ファミレス化する美容室」をシニア特化で差別化
── 巣鴨は“おばあちゃんの原宿”とも言われます。お客さまは地元の方が多いのでしょうか?
「この美容室がいい」と遠方から通うお客さまがほとんどです。「巣鴨へ来た記念に」と地方からの旅行客がいらっしゃることもあります。巣鴨のある豊島区に住んでいるお客さまは、全体の5%以下ですね。
── 写真館を営んでいた太田さんが、美容室をつくろうと思ったのはなぜですか?
僕は元々ファッションスタイリストだったのですが、シニア向けにメイクと撮影をセットで提供する写真館を仲間と3人で始めました。そうしたらメイク中に「髪を切ってくれない?」「カラーはできる?」と聞かれることが多くて。
美容師ではないので「それはね、できないんですよ」と断ると、残念な顔をされる方がたくさんいました。
詳しく聞いてみると「人気の美容室でおしゃれな髪型にしたいけど、そういう場所に行けなくなった」という事実が浮かんできました。つまり、若い子の隣でカットされるのは居心地が悪いと。
── それで、シニア世代に絞った美容室を?
はい。僕はずっと美容室がファミレス化していると感じていました。老若男女だれでも受け入れて、キービジュアルは若い女性を起用する。それが今も当然の流れになっています。でもユーザー目線に立ったら、ファミレスのようにどこも同じに見えてしまうんじゃないかと。
だから、「50代以上の女性を素敵に!」というコンセプトを掲げ、それに共感する人が集まる場所にしたかった。ターゲットを絞ると悩みが明確になるので、サービスの内容に一貫性が出ます。スタッフも共通認識を持てるので、チームとしてうまく稼働するんです。
最初は大変でしたが、口コミで広がって売上が安定しました。ありがたいことに、いま美容室は数カ月先まで予約が埋まっている状態です。
サンクリエーションの歩み
◯2014年 えがお写真館 開業
◯2018年 えがお美容室 開業
◯2019年 えがお洋品店・えがお爪工房 開業
◯2022年 えがお美癒堂 開業
②美容室の枠を越えた「体験価値」を
── 美容室に写真スタジオ、洋品店、ネイルサロン、エステティックサロンと横展開するメリットをどう捉えていらっしゃいますか?
僕らは頭のてっぺんから爪先までのトータルビューティーを提供しています。要は、ここに来れば“シンデレラ体験”ができる。
見た目の変化も大事ですが、皆さん、そこにたどり着くまでのプロセスを楽しんでいらっしゃる印象です。髪もメイクもネイルもしてもらって、女優みたいだったって。 そうした「体験」を人に伝えたくなるから、口コミで広がっていくのかもしれません。
そして写真館で、きれいになった姿を残せます。僕が写真館を始めた理由のひとつは、父が亡くなったとき、遺影の写真として十分なものがなかったことです。シニアにとって、自分のお気に入りの写真を撮るのはとても大切なことだと思います。
── 洋服を販売する美容室はそこそこありますが、大きな事業とは言えません。「えがお洋品店」がビジネスとして軌道に乗っているのはなぜでしょう?
美容室のサイドビジネスではなく、本格的な「セレクトショップ」だからです。ひとつのファッションブランドを動かす意識で運営しています。だからファッションディレクターやデザイナーなど、その道のプロを必ず介在させるんです。
「えがお洋品店」が順調といっても、美容室の顧客のうち洋品店の利用者は5%程度です。でも、小さな店なのでそれで十分。美容室も含め、店舗の売上をあまり意識していません。