③例えるなら、町にあるこだわりのパン屋さん
── アメリカで使っていたものは、サンコールの商品とは真逆だったわけですね。
サンコールのコンセプトである「ダメージレス&ダメージケア」は、なるべくダメージを抑え、ケアもしていこうというもの。私が入社した頃にはすでに制定されていたほど、取り組みとしてはかなり長いですね。
ひと昔前のヘアカラー剤は、ブリーチもしながら色味を入れていくというタイプでしたが、当時の主力商品の「レアラカラー」は、ブリーチと色味の薬剤を分けてあるんですね。色味だけの薬剤を使うと相当ダメージを抑えることができるんです。これは面白いと思いました。
思い出深い商品は、「ボタニエンス」シリーズです。ボタニカル(植物由来)とサイエンス(科学)を融合させた造語ですが、もともと21種類の植物エキスを配合した「R-21」というシリーズがあり、これを進化させたものになります。
植物エキスとケミカル、それぞれのよいところを組み合わせて相乗効果を狙っているのですが、おかげさまで好評をいただいています。
── サンコールのものづくりへのこだわりには定評がありますよね。
製造や開発の現場で働くスタッフからよく聞く話ですが、開発に向いているのは料理が得意な人だそうです。料理と同様に、同じ原料でも入れるタイミングや温度、混ぜるスピードで全然違うものになるんです。
すべてのお客さまに支持されなくても、ごく一部のお客さまが認めてくださればよいという考えで商品を作っています。例えるなら、町にあるこだわりのパン屋さんです。大きなスーパーに並ぶ大手メーカーのパンもそれはそれでよいところがあるのですが、コアなファンがいる、みたいな。
そうなると、町のパン屋さんのように、機械を一旦止めて手で回したりとか、職人の手作業による工程が必要になってきます。製造コストはかさみますが、それが当社の強みです。
売り方や販路も大切ですが、それ以前にものを作るということを楽しめる人が当社には多く、ありがたいと思っています。
── 企画部での仕事を通じて学んだことはかなり大きかったのですね。
最初の頃は頭でっかちで、いいものを作ったつもりでもなかなか売れない商品もありました。デザイン的にも今と比べるとお客さまから厳しい意見をいただくこともありました。
その後、いろいろ学び、教わりながらやってきた結果、コロナ禍でも売り上げは下がりませんでした。社員のみんなに支えてもらったおかげだと思っています。
④100年企業にするためにどうあるべきか
── 社長に就任されて8年目になりますが、印象に残っていることやターニングポイントとなった出来事はありますか。
この社屋ですね。設計から竣工まで5年かかりましたから。やはり、会社は人です。社長として、いかに働きやすい環境を作ってあげられるかというのが大事だと思っています。
そもそも美容は、衣食住のように生きていくために必要不可欠なものではありません。しかし、美容があった方が人生を豊かに生きることができると思います。
実は、この社屋も自販機の裏や屋根など見えないところにまでレンガを貼りました。ムダなものが、あえていっぱいあります。コストを徹底管理して、システマティックに効率を追求するのもよいかもしれませんが、それで人生が豊かになるかというと、ならないと思うんです。
── すばらしい考えだと思います。
商品開発も売れるかより自分たちが使いたいかどうかが基準になっていますし、私の社長としての器的にも、こういう会社は大きくならないですよ(笑)。
会社を維持していくために順調な成長は欲しいと思っていますが、私の代でことさら大きなものを成し遂げたいというのは全然ありません。4代目として次の世代にバトンタッチするだけ、会社にとっては通過点のようなものです。
10年ほど前から、営業や企画、開発など部署を横断して10名くらいのメンバーで商品開発のプロジェクトチームを結成するようにしています。そこでは私も意見を述べるのですが、全否定されることもめずらしくありません(笑)。
会社はひとつの船によく例えられます。指針はトップが出し、方法論はボトムアップの方が、スムーズに航海ができると思っています。
── 最後にお聞きします。「100年企業」という目標を掲げ、コーポレートサイトに明記されていますが、それを為すためには何が必要だと考えてらっしゃいますか。
当社には売り上げの目標さえありません。でも15年くらい前、先代から何かあった方がよいという話があり、それをきっかけに100年企業という目標を掲げました。
創業10年でもすばらしい会社はいくらでもありますから、100年が偉いわけではないのですが、100年企業という目標をどのようにクリアしていくかを考えることが大事なんです。
ものを作るためには、やはりそれを生み出す社員が必要ですし、社員のパフォーマンスを引き出すような環境を整えなければなりません。
端的に言えば、人材育成と環境整備ということになるわけです。幹部はもちろん、社員一人ひとりも100年企業にするためにどうあるべきか、全員で模索していくことが大切であり、そのような企業でありたいと思います。
今牧 亮輔
株式会社サンコール代表取締役社長
IMAMAKI RYOSUKE/日本の大学在籍中にオーストラリアの大学へ留学。卒業後、システムエンジニアとして働いた後、アメリカの大学に留学してコスメトロジーを学ぶ。カリフォルニア州の美容師資格を取得し、サンタモニカで美容師として働く。2004年2月、サンコールに入社。営業部、経営企画室、企画部を経て、2015年10月より代表取締役社長に就任。新社屋を建設し、2022年6月に名古屋市千種区小松町へ本社を移転。
取材・編集/大徳明子 取材・文・撮影/永谷正樹