日本におけるブリーチ剤のシェアNo.1*ブランド、シュワルツコフ プロフェッショナルのファイバープレックス。ここ数年のブリーチ市場をけん引してきた同社が、満を持して同ラインのカラー剤「ボンド カラー」を発売。シュワルツコフ プロフェッショナルは、本社のあるドイツを中心に世界中に開発チームがいるが、今回のカラー剤は日本が研究開発の主導権を握ったという。
ブリーチ市場を知り尽くした同社の日本チームだからこそ開発できたカラー剤。そのこだわりとは? ファイバープレックス ボンド カラーの開発を担当するヘンケル コンシューマーブランド 研究開発部の内田航太さんに話を伺った。
*2022年 シュワルツコフ調べ
目次
ブリーチを日本の当たり前にしたい
── 今回のこの「ボンド カラー」は日本が独自に処方開発したと聞きました。このカラー剤の話を聞く前に、まずは、一世を風靡しているファイバープレックスのブリーチ剤について伺ってよろしいでしょうか。ファイバープレックスはブリーチのNo.1ブランドだそうですね。
ありがたいことに、多くの美容師さんに支持していただいています。「ブリーチを日本の当たり前にしたい」。そうミッションを掲げて開発を進めてきたので、とても嬉しいです。
ファイバープレックスは世界中で売れているのですが、とくに日本でのシェア率が非常に高くなっています。ですので、ファイバープレックスブランドに関しては、日本でのインサイトや発言が、グローバルでも重視されているように感じます。
── ファイバープレックスシリーズは本国のドイツで作られたものですか?
ブリーチ剤はドイツで作られましたが、前処理剤や今回のボンド カラーは、日本人の髪質に合うように、新しく開発した処方になります。
日本人向けの処方にしたボンド カラー開発の苦労
── ファイバープレックスを日本人向けに開発する際、特にこだわった部分はどこですか。
日本人と欧米人の髪では、髪質が全然違います。ですから、日本人の髪できちんと結果が出ることを第一に考えました。髪色を明るくできるのはもちろんですが、日本人の髪質でもダメージを軽減できるようにすること。
── 欧米人向けの処方を、日本人の場合はどちらの方向へ寄せていくのですか?
たとえばリフト力でいうと、アップする方向です。日本人は欧米人に比べて髪のメラニンの量が多いですし、髪の太さも日本人のほうが太いため、色が抜けにくいのです。
また、ヨーロッパと日本では2剤に配合できる過酸化水素の濃度が違います。ヨーロッパの方が上限濃度が高いのです。ですから、その面での研究も重要です。
とくに、リフト力の調整が難しくて……。単純に薬剤を強くするだけならそこまで難しくはないのですが、強くしたぶんダメージも強くなってしまいます。日本で2剤に配合できる過酸化水素の上限濃度は6%ですので、1剤と混ぜたときに、ちょうど良いリフト力とダメージをしない加減を調整するのに苦慮しました。
ブリーチ市場が大きくなったからこそ、処方を変える必要があった
── ファイバープレックスは発売から何度かリニューアルしていますよね?
ファイバープレックスを支える理論は「保護と強化」の二本立てです。この理論を実現するための配合成分も、発売時とは変わってきています。
── そうだったのですね。そういった処方のリニューアルはよくあることなのですか。
ファイバープレックスシリーズは比較的多いと思います。商品を発売した後も、つねに「もっとダメージを削減できないか」との思いで研究や改良のための実験を行っています。
より良い成分が見つかったり、効果が認められたりした場合は、すでに発売している商品の処方を変えます。
たとえばファイバープレックスNo.1(前処理剤)の場合は、発売当初はマレイン酸で髪の保護を担っていたのですが、改良を重ね、現在は、コハク酸、酒石酸、ムチン酸になっています。
── それはなぜ?
これらの成分は毛髪を保護するという意味では一緒の役割なのですが、コハク酸、酒石酸、ムチン酸はフレキシブルな構造をしているため、より毛髪内部に定着し、保護してくれるからです。
また、マレイン酸のポリマーは分子量が大きすぎるのではないか、とも感じていました。分子量が大きいと、髪の内部に浸透しにくくなります。そういったいろんな側面から、内容成分を取捨選択し直しています。
── 面白いお話です。日々、進化しているのですね。
もうひとつ重要な要素は、発売当初に比べて、ブリーチ回数を重ねたお客さまが増えたということです。
── なるほど!ファイバープレックスが売れて、ブリーチをくり返す人が増えたからこそ、新たに生まれた課題ですね。
ですから、あまりダメージのない髪をブリーチするというよりは、すでに何度かブリーチした髪でもお使いいただけるような処方に寄せていきました。
くすませない。でもムラにならない。さじ加減の難しさ
── 今回発売されるボンド カラーについて聞かせてください。日本で研究開発されたとのことですが、カラー剤においては、どんな状態になったときに「これはいいものができた!」となるのでしょうか。
色ムラのない、均一な仕上がりになったときです。毛束でテストしたり、モデルさんの髪でテストしたりするのですが、その際にいい結果がでてくると、これはいけそうだな、と。
── ブリーチ オン シェードの開発の難しさというのはどんなところにあるのでしょうか。
ひとつは、色が濁らないようにすること。もうひとつは、アンダーが黄色く上がる人もいれば、オレンジっぽく上がる人もいるので、どちらになってもカラーがきちんと出るようにするというところの調整です。
また、髪が長い方は根元と毛先とでブリーチの回数が違ってくるので、それでも均一に仕上がるように工夫が必要です。
── 均一に仕上げるために、どんな工夫をしているのですか。
染料とアルカリのバランスの工夫ですかね。「アルカリレベル」と「染料の配合」の組み合わせを、かたっぱしから毛束を使ってテストしていく感じです。
── 染料とアルカリのバランスを変えることによって、ムラやブレが少なくなるようにしているのですね。それが普通のカラーよりも、ブリーチ オン シェードだと、より難しいということでしょうか。
その通りです。例えばペールカラーを作りたければ、薄い染料構成で作るのですが、それを均一にブリーチされていない毛にのせると、グラデーションのようにムラになってしまいます。
かといって濃くしてしまうと色が沈んでしまう。若干くすませたほうが均一感はでるけれど、くすませすぎるとただの茶色っぽくなってしまうから調整しなおす……。こういったことを、延々とくり返します。
先ほどお話ししたアルカリの量もそうですが、ちょうどジャストのところを探るのが難しいのです。
── どの組み合わせがベストなのかを、どのように判断するのですか?
目視の時もあれば、機械で測定するときもあります。赤み、青み、黄み、緑みを測定できる機械があるのですが、色持ちに関しては染めたての毛束を測定して、シャンプー処理したあともう一度測定するといった具合です。
この作業、いつも味見をしながら一番おいしい味付けのレシピを考えるのに似ているなって思うんです。なので、家ではあまり料理をしたくないんですよね(笑)