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「カラー+ヘアケアでファンをつかみ客単価を上げる」(ico・畑中里志さん)

⑤ハイトーンも無理をしない。お客さまの希望を否定せず、寄り添いながらかなえる

多彩なデザインカラーを手がける畑中さん。「icoの売りはトリートメントとハイトーンのかけ合わせです。今は髪色を明るくしたい人でも、ダメージは嫌と考える方が多いので、なるべくブリーチ=ダメージというイメージを抱かせないよう心がけています」

最近は年齢を問わず、ダブルブリーチなどが必要なハイトーンのカラーが人気だが、過度なブリーチは続けられる人が限られてしまう。

「お客さまが継続してデザインカラーを楽しめるギリギリのラインを攻める。これぐらいならメンテナンスもできるし、ダメージ的にも許容できる。そうやってお客さまに『ブリーチって意外に良いんじゃないか』と思ってもらえるゾーンを手がけることが多いですね」

「ハイトーンカラーは無理せず継続できる範囲で」が畑中さんのポリシー

色選びについても、お客さまに寄り添う姿勢は変わらない。基本的に「デザインカラーはできるだけお客さまの希望に合わせている」と畑中さん。その理由は「美容師が自分の考えを押し通そうとすると、お客さまは希望をかなえてくれるサロンを探し求めてしまうから」だそう。

「もちろん僕からも事前に『その色だと、顔色が悪く見えるかも』といったアドバイスはしますが、まずはお客さまの希望を優先します。それでお客さま自身がやっぱり似合わないなと感じれば、じゃあ次は提案のような色にしてもらおうと再びサロンに来てくれますから」

⑥店名の由来は、お客さまに「また行こう」と思ってもらいたいから

「icoで一番大切にしているのは、お客さまに居心地が良いと感じてもらうこと」と話す畑中さん。サロンのスタッフにも、お客さまが心地良く過ごせるようなサービスを提供するよう伝えている。

サロンで過ごすお客さまの不安を取り除くのも、その一つ。「お客さまがその日にしたいヘアスタイルのイメージや、お客さまの髪の悩みをくみ取れるかどうかで、与えられる安心感が変わってきます。たとえば『ここがハネやすいですよね』『髪がパサつきやすいですよね』とお客さまの悩みに寄り添えると、お客さまに『わかってもらえた』と安心してもらえるんです」

icoという名前にも、畑中さんの理想とする居心地が良いサロンのイメージが色濃く反映されている。サロンをicoと名付けたのは、お客さまに「また行こう」と思ってもらえるサロンにしたかったからだそうだ。

「名前の由来を聞かれたときに、フランス語のような洒落た感じの店名だと説明するのが恥ずかしいんじゃないかなと思って。日本人だし、やっぱり日本語が良いかなと考えicoと名づけました」

2階へと案内してくれるシンプルでオシャレな看板

かつて勤めた2つのサロンは有名店。オーナーが求める理想のサロン像に近づくためには、スタッフの技術や接客もそれにふさわしいレベルにまで引き上げなくてはいけない。そのため畑中さんも、時には厳しく周りのスタッフに指導していたという。

しかし畑中さんは「今は、そうしたお店づくりを目指していません」と話す。

「決して提供するサービスのレベルを下げるというわけではなく、サロンとお客さまのカラーが違うだけ。たとえば有名店がドレスコードのある高級な飲食店のイメージなら、icoは普段着で行くカジュアルな飲食店のイメージですね。ただし、決して安い居酒屋ではなく、ちゃんと良いものを提供されたい人が行くお店のイメージです」

「うちに通ってくれているお客さまが違うサロンを利用したときに、『icoではこうしてくれたのにな』と思ってもらえるような施術や接客を提供したいです」

⑦客単価を上げるため客層を20~30代の女性に絞る

icoは現在、スタイリスト3人、アシスタント1人の4人体制で営業している。施術はマンツーマンになることも多い。

「基本的にスタイリストのどちらかがお客さまを施術していたり、アシスタントが休んだりする日は全部1人でやりますね。シャンプーにも入ります。みなさんがイメージするようなオーナーの働き方ではないかもしれません」

席数が5席ということもあり、できるだけ客単価を上げる工夫をしているそう。現在、畑中さんの客単価は施術のみで1万5000円、ほかのスタッフは1万~1万2000円ほど。カットだけのシングルメニューのオーダーは少なく、カラーやトリートメントといったセットメニューを選ぶ顧客がほとんどだ。

それが可能なのは、デザインカラーを取り入れやすく、かつ髪のダメージにも敏感な20~30代の女性に客層を絞っているから。「ホームページやSNSにメンズヘアのスタイリングは一切載せていません。KILLA時代から担当している男性のお客さまはいらっしゃいますが、新規はほぼゼロです」と線引きもハッキリ。

また、カットだけで予約が入ってしまうと、アシスタントに任せられることが減ってしまう。結果的にオーナーだけが忙しくなり、営業が慌ただしくなるという悪循環を防ぐ目的もあると教えてくれた。

「もちろん、ほかのスタイリストがメンズヘアを手がけたいのであれば、それはやってもらって構いません。ただ、メンズカットはどうしても客単価が上がらないので、本人が希望しないのであれば、無理に手がけなくて良いのではないかと思っています」

自然光が入り気持ちの良い時間を過ごせる店内

⑧美容師や美容学生から「icoでこんなことをしてみたい」と思ってもらえるサロンに

SNSでの発信にも力を入れている。顧客獲得のためにSNSを積極的に活用するサロンやスタイリストが多いなか、畑中さんは「SNSはおもに採用目的で使っています。お店の雰囲気を伝えるツールとしてブランディングに活用している感じですね」と語る。

「美容業界では、作品づくり自体が弱くなってきていると感じます。ですから、美容師や美容学生のみなさんが見て『こんな感じのスタイルをやってみたい』『このサロンで働いてみたい』と思ってもらえるような目線で発信することが多いです」

icoではオープン1年目から積極的に新卒採用をおこなっている。しかし、オープンして間もない時期に新卒を雇用するのは相当な覚悟がいるのではないだろうか。その問いに対して、畑中さんは「今までのサロンでもしっかり教育に取り組んできたので、あまり心配はしていない」と答えた。

「経験者はどうしても前職でのやり方にとらわれてしまう部分もあるので、新卒の方のほうが時間はかかるけれど育てやすい側面もあります。うちのサロンはまだまだ認知度が高いわけではありませんが、このサロンは居心地が良いと感じてくれる仲間と、一緒にステップアップしていきたいと考えています」

オープン1年目から新卒採用を行っている畑中さん。「一緒にステップアップしていきたい」

とはいえスタッフを増やし、サロンをどんどん拡大したいという野心があるわけではないそう。「アシスタントを採用して人が増えると、いずれ客席も足りなくなります。そのときは広い場所への移転も考える」と、あくまで自然に任せるスタンスだ。

それには、美容師はネガティブなイメージが多い職業であることも影響している。「自分がお店を持つのなら、労働時間が長い、休めない、給料が安いといったネガティブな部分はできるだけ排除したいなとずっと考えていました」

居心地の良さを感じてほしいのは、お客さまだけでなくスタッフに対しても同じだ。たとえばカラーの薬液を買うとき。新しいものが出たらなるべくすぐに試し、「使ってみてどうだった?」とスタッフの意見を聞くようにしている。良いという反応があればそのまま使い、前のほうが良かったと言われればみんなの意見を尊重して変えるのだそうだ。

物品の購入は自身でおこなう。スマートフォンにビューティガレージのアプリを入れているので、空き時間にサッと注文するという。icoではスタッフに負担をかけない、そして、個々がやりたいと思うことを否定しない。

「お客さまにとってもスタッフにとっても、居心地の良いサロンを目指したい。それが僕の目標です」と畑中さんは柔らかな笑顔で語った。

畑中里志
ico 表参道/原宿 代表

はたなか・さとし/1990年生まれ。神奈川県出身。山野美容専門学校卒業。スタイリスト歴12年。HAIR DIMENSION、KILLAを経て、2020年に自身初となるサロン・icoをオープン。ブリーチを使わないグレージュカラーやハイトーンカラー、インナーカラーなどのデザインカラーが得意。ライフスタイルに合わせた、無理なく続けられるカラー提案を心がけている。

取材・編集/大徳明子、佐藤友美 文/山本洋子 撮影/筒浦奨太

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