「コロナの影響で、はからずも独立することになった」というico(イコ)表参道/原宿」の代表・畑中里志さん。逆境のなかオープンしたサロンは、着実にファンを増やし続けている。
メニューの核となるのは、デザインカラーとケアトリートメントのセットメニュー。「お客さまにもスタッフにも無理をさせない」を信条とする畑中流サロン経営とは?
目次
①コロナ禍で訪れた転機。今までとは違うことをやるため独立
畑中さんが原宿エリアにicoをオープンしたのは、2020年11月のこと。新型コロナウイルスの影響で多くのヘアサロンが打撃を受けた年だ。
「僕が最初に働いたサロンは、HAIR DIMENSION(ヘアー ディメンション)の青山店です。そこで5年ほど働き、2016年にサロンが閉店するタイミングで原宿エリアのKILLA(キラ)に移りました」
ところがKILLAでの勤務が5年になろうとしていたころ、政府から緊急事態宣言が発令された。もともと2店舗で営業していたKILLAが1店舗で営業する方針に変わり、思うように出勤できなくなってしまう。
「それならフリーランスになろうと思い立ち、その4カ月後には自分のサロンをオープンしました」
計画的に独立したというよりも「コロナ禍に背中を押されてオープンした感じ」との言葉通り、最初は必要最小限の状態でサロンをスタート。居ぬき物件を借り、少しずつ内装を整えていった。その際、日本政策金融公庫と信用金庫から、開店資金として合計1500万円の融資を受けている。
「融資を受けるために、日本ではまだ珍しいLAケラチントリートメントを使用している点をアピールしました。LAケラチントリートメントは、ブリーチをしてもストレートパーマをかけたようなまとまりのある髪に仕上がるのが魅力。当時はちょうどハイトーンが増えてきた時期だったので、事業計画書には『デザインとケアの両方ができるサロンをつくる』と書きました」
②持ち前の実行力で、2年半でスタイリストデビュー
独立する予定はなかったと語る畑中さん。美容師を目指すことになったのも、たまたまだったとか。
「高校を卒業してから1年間はフリーターをしていたのですが、このままでは良くないと思うようになりました。せっかくだから何かの学校に通おうと考えていたところ、大学に進学した友達の一人が退学すると言い出して。『公務員の専門学校に一緒に行こう』と誘われ、僕もその気になったんです。でも友達は大学に残ることになり、その話も白紙になりました」
「当時はやりたいと思うことがなかった」という畑中さんだが、学校探しは続けていた。そのなかでスーツを着ずに働ける仕事っていいなと美容師に魅力を感じ、美容学校への進学を決意する。
どうせなら知名度の高い学校で学びたいと考えた畑中さんが選んだのは、山野美容専門学校。美容師になると覚悟を決めて入学してからは、持ち前の実行力を発揮した。与えられたカリキュラムに取り組むだけでなく、隣のクラスに行ってカット練習を熱心に見学することもあったという。
「僕のクラスの担任はカットを受け持っていなくて。だから隣のクラスの先生に頼み込み、カット練習を特別に見てもらっていたんです。卒業後は原宿や表参道で働きたかったので、自分が『ここが良い』と思うようなサロンに行くにはどうすれば良いのだろうとずっと考えていました」と話す。
畑中さんの実行力は、美容学校を卒業してHAIR DIMENSIONに入社してからも発揮される。「1年間フリーターをしていたので、その遅れを取り戻したい」との思いで勤務にあたった。そのために立てた目標が、1つ年上の先輩と同時か、自分が先にスタイリストになること。
最短で目標を達成するため、畑中さんは努力を惜しまなかった。
「営業前の時間や休みの日に雑誌の撮影が入っているスタイリストを見つけて、ついて行くようにしていました。また、サロンで実際に使われている技術こそが、スタイリストになったときの自分の技術力に直結すると思っていたので、惰性で仕事をすることはありませんでしたね。サポートに入る1回1回を大切にして、上手なスタイリストと同じ技術レベルでできるよう常に意識していました」
成長に繫がるチャンスを逃さないようにしつつも、時間はムダにしない。そうした畑中さんならではの努力を積み重ね、HAIR DIMENSIONに入ってからわずか2年半でスタイリストデビューを果たした。
そのあとに移ったKILLAでは数々のコンテストに参加し『PREPPY新人スタイリストバトル 第19代目キング』を受賞する。
③デザインの幅を広げるため、あえて系統の違うサロンに
コンサバ系のHAIR DIMENSIONとストリート系のKILLA、それぞれ違うジャンルのサロンで活躍してきた畑中さん。なぜ同じテイストのサロンを選ばなかったのかと質問すると「自分のデザインの幅を広げたいと思ったから」と理由を語る。
HAIR DIMENSIONの客層は大人女性がメインのため、グレイカラーやナチュラル系のヘアカラーが大半だったが、KILLAは比較的若い年代の女性が多く、デザイン性の高いカラーをオーダーする顧客が多い。ちょうどデザインカラーの需要が高まってきたタイミングでもあり、新たな技術を習得するためにも、KILLAで働こうと思ったそうだ。
高度なデザインカラーの技術や薬剤知識を得て、畑中さんの武器は増えた。しかし、それもこれも、最初にベーシックな技術がしっかり身についていたからだという。「HAIR DIMENSIONでベーシックな技術をしっかり学べたのは僕にとって大きな財産。最初に入社したサロンがHAIR DIMENSIONで良かったなと思います」
④独自輸入のLAケラチントリートメントを導入しているわけ
icoの特長であり魅力でもあるのが「デザインカラーとヘアケアの両方が高いレベルでできる」こと。そこで重要な役割を担っているのが、LAケラチントリートメントだ。
きっかけは、HAIR DIMENSION時代にお世話になった先輩からの紹介だった。
「アメリカのビバリーヒルズで美容師をしていた先輩が、現地で有名なLAケラチントリートメントを日本で広めたいと言って声をかけてくれたんです。サンプルを使ってみたら仕上りがとても良くて、すぐに気に入りました」
それまでも日本にはケラチン型トリートメントがいくつかあったが、畑中さんは「LAケラチントリートメントは、バランスが良い」と語る。
「以前はたっぷりと保湿される、“いかにもトリートメントをしています”といったツヤ髪が好まれたのですが、今はあまりトリートメントをしている感が出ない“素髪風に仕上がるトリートメント”が好まれています。ただ、そういったタイプのトリートメントは持ちが良くない場合がほとんどで、ハイダメージの髪に使うには少し物足りない印象でした。LAケラチントリートメントなら、ハリ・コシも出てしっとりするけれど、素髪っぽい質感に仕上がります」
LAケラチントリートメントを取り扱うサロンは、原宿・表参道エリアでまだ数十件ほど。「icoではなるべくダメージを与えずにデザインカラーを楽しんでいただけるよう、LAケラチントリートメントを使ったケアブリーチのメニューを用意しています」