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偉大な父のプレッシャーを越えて「自分らしく」 石渡智花さんインタビュー

⑥「石渡潔の娘」という重圧

── これまでに美容業界の重鎮である「石渡潔氏の娘」という肩書きが、ついてまわったと思われます。プレッシャーに感じたことはありますか?

肩書きを重荷と感じたことは何度もありました。確かに偉大な父の存在はありがたいです。でも、周囲からの期待の目線は辛かったですね。だからこそヘア業界から雲隠れして、メイクアップに夢中になったのかもしれません。

── お父様はどんな指導をしてくれましたか?

仕事場での父はとにかく厳しかったです。でも、口調はエレガンスで芯が通っていました。

ヘアセットひとつとっても父が手がけると「情感のようなもの」が感じられるんですけど、それがなぜなのか簡単には説明してくれないんですよ。でも、私が根気強く質問を続けると、丁寧に時間をかけて教えてくれました。

── これまでにお父様から学んだ、印象深いことは何ですか?

今でも大切にしている父の教えが二つあります。

一つは「ヘアスタイルは生き物」ということ。自分がヘアスタイルを作り上げた段階で、勇気をもってやめることが大事だと教わりました。触りすぎると、鮮度や躍動感が落ちてしまうんです。

もう一つは「最高に美しいものと、その逆の両方をしっかりと見ておくこと」。最高の作品をつくるためには、一流の絵画を鑑賞するだけでなく、ダーティーなスラム街も知っておく必要があるんです。それらを消化し、自分のフィルターを通して打ち出すことで素晴らしい作品になりえます。

これらの父の教えは、ずっと私の芯として大切にしています。

⑦原宿にヘアサロンをオープン

── 2001年に原宿でヘアサロン「TRIBE(トライブ)」をオープンしています。なぜお店を始めようと思ったのでしょうか?

24歳の頃から12年間フリーランスとして走り続けてきましたが、「サロンワークをやりきっていないな」と思ったんです。それまでは父のヘアサロンを継がず、メイクの仕事に奔走してきたので、改めてサロンワークに向き合いたいなと。

TRIBEのコンセプトは、お客さまに楽しいクリエイティブな時間を提供すること。スタート時こそ苦労しましたが、お客さまに愛されるお店に成長しました。2007年に千葉の市川へ移転しましたが、そこでの日々も充実していましたね。

TRIBEの看板は、勝浦に移住した今も大事に保管しています

── 石渡さんは、有名人のヘアメイクも数多く手がけていますよね。

リンドバーグさん、氷室京介さん、鈴木雅之さんなど、著名な方々を担当させていただきました。

なかでも思い出深いのが、窪塚洋介さんです。公私ともに仲良くさせていただきまして、彼の謎めいたイメージ作りを一緒に試行錯誤しました。私からの提案で、頭にタトゥーを施すという奇抜なスタイルにもチャレンジしたんですよ。

原宿にヘアサロンがあった頃は、いろんな芸能人が来店してくれました。一般のお客さまと同じ空間で施術をしていまして、なんとも自由な雰囲気でしたね。

コロナ禍、勝浦で心機一転

── 2020年にコロナ禍のため、市川のサロンを閉店したそうですね。

原宿時代のTRIBEから20年来の付き合いになるお客さまもいて、閉店は心苦しかったです……。

せめてもと思い、400人ほどのお客さま一人ひとりに手書きの「ヘアレシピ」をお渡ししました。美容師さんにお渡しすることで、ヘアカットの助けになるようにと、その人の髪のクセや骨格などを記したものです。

お客さまが美容室難民にならないように、おすすめの美容室も紹介しました。

── 現在は千葉・勝浦にお住まいですが、どんな活動をしているのでしょうか?

ヘアやメイクアップのセミナー活動をしています。これはフリーのヘアメイクアーティスト時代から続けてきたことですが、勝浦に来てから新たにプライベートレッスンも始めました。

レッスン生が学びたいことをお聞きして、実際にモデルさんにヘアメイクを施した作品づくりをするんです。ヘアコンテストへの出場意欲がある美容師さんたちの学びの場になればいいなと。

あとは、お客さまがつかないとお悩みの美容師さんへアドバイスもしています。私のこれまでの経験から、ファンベースを増やす真髄をお伝えしたいと思っています。

── 最近はヘアメイク以外のクリエイティブな活動にも精力的ですよね。

缶バッジやTシャツなど、オリジナルアイテムの制作をしています。私は美容の専門家ですが、絵を描くのも大好きなんです。友人にクリエイターが多いので、彼女たちの影響も大きいかもしれません。

大の愛犬家でして、犬の保護活動にも携わっています。オリジナルグッズの売上金は、アメリカのピットブルレスキュー団体へ寄付しているんですよ。

大の犬好きという石渡さん。アメリカンピットブルテリア6匹と一緒に暮らしています

⑨お客さまのワクワクをつくり続けたい

── 今後、挑戦したいことについて教えてください。

勝浦にヘアスタジオをつくりたいです。カットはもちろん撮影もできる環境があれば最高! そして、たくさんの人に足を運んでもらいたいです。

遠方からのお客さまがヘアカットをしたついでに、勝浦の自然の息吹で充電してもらいたいなぁと。スタジオが完成したら、ぜひ宿泊もしてもらいたいと思っています。

大自然に囲まれ、ゆったりとした空気が流れる勝浦。石渡さんにとって特別な地です

── 魅力的な場所ですものね。訪れたお客さまも元気になれそうです

本当にステキな場所なんですよ。だから、この地でヘアカットやメイクをして、お客さまのワクワクをつくっていきたいんです。そして彼女たちが「私ステキじゃん!」「今が最高の気分!」とキラキラ輝くような瞬間をたくさんつくり続けていきたいなと思います。

石渡 智花
ISHIWATARI CHICA/ヘアメイクアップアーティスト
父・石渡潔氏に師事。フリーランスのヘアメイクアップアーティストとしてパリコレや人気ファッション誌で活躍。リンドバーグ、鈴木雅之氏、氷室京介氏、窪塚洋介氏ら数々のミュージシャンやアーティストのヘアメイクを担当。2020年、コロナ禍によりサロンを休止し、千葉・勝浦に移住。現在はヘアメイク、フォトグラファー、コスチュームクリエイターとして業界、一般に向けてサポート体制を築くなど、幅広い活動を展開中。日本ヘアデザイン協会(NHDK)ニューモード創作設定副委員長。
▽Instagram=@tribe_earthrhythm

取材・編集/杉野碧 文/渡辺まりこ 撮影/漆戸美保

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