⑤気になる韓国スタイリストの報酬体系
── ゴニさんは日本と韓国のどちらでもサロン運営を経験されていますが、美容業界の違いはありますか?
韓国の方が、カット代の相場がやや高いですね。ひと昔前であれば日本のヘアサロンは高いイメージがありましたが、今やカラー代もパーマ代も韓国の方が高価です。
さらに日本(表参道・青山)は、家賃も人件費も高い。つまり経費がかかるので、必然的に利益は少なくなります。
── 韓国のスタイリストは、どのような報酬体系ですか?
韓国のスタイリストは、デビューしてから3~6カ月の期間であれば基本給がもらえます。ですが、その期間を過ぎたら基本給はゼロ。スタイリスト個人に対してお客さんがつき、売り上げの何割かがスタイリストの報酬になります。
つまり、指名があればあるほど稼げますし、逆に人気がなければ辛い状況になるというわけです。非常にシビアですよね。日韓でスタイリストの報酬を比較すると、腕さえあれば韓国の方が稼ぎやすいといえます。
韓国のヘアサロンは個人主義で「売上が王様」とよくいわれるように、スタイリストごとにはっきりと給料の差があります。そして売り上げに比例して、サロン内でのポジションも異なってきます。
── では、アシスタントは、いかがでしょうか?
韓国のアシスタントに支払われる報酬は、基本給の3分の1程度です。通常はアシスタント経験を5年ほど積んだ後、やっとスタイリストデビューできます。
── 韓国のトップスタイリストは、芸能人の専属としても活躍しています。きっと尊敬や憧れのまなざしを受ける立ち位置なのでしょうね。
そうですね。韓国では、芸能人の専属スタイリストになると、日々のスタイリングを担当します。歌手のライブやアイドルのCM撮影の現場に赴くことになり、芸能人のスケジュールに合わせて、自らのスケジュールを組むことが基本です。
売れっ子スタイリストは知名度が上がり、もちろん報酬が高くなります。芸能人に個人のスタイリストが重宝されるというのは、日本と違う特徴かもしれませんね。
⑥家賃は330万円! 試練だらけの経営
── ところでゴニ トウキョウは、2017年、東京・表参道にサロンをオープンしていますが、なぜこの地を選んだのでしょうか?
東京の表参道青山は、日本のファッションの中心地であり、たくさんの有名サロンが集まっています。流行に敏感な人が集う地でもあり、日本にサロンを出店するならここだと最初から決めていました。私は韓国の清潭洞(チョンダムドン)でもサロンを経営していたこともあったのですが、やはりそこも流行の発信地なんですよ。
もし韓国好きをターゲットにするならば、新大久保を選ぶのが正解だったのかもしれません。でも、私は人と違うことをやりたい性格なんです。昔から憧れていた表参道・青山でオープンしたことは間違いなかったと思っています。
── 最初にオープンしたサロンは表参道の骨董通りにあったそうですね。当時、大変だったことについて教えてください。
本当に苦労だらけでした。まず、私には日本の美容師免許がなかったので、スタイリストを募集したのですが全然人が集まらない。新大久保と比べると韓国ファンが少ないので、オープン当時はお客さんが少なかったです。
何とかサロン経営が波に乗ってきても、100坪ある家賃は月330万円超えで、さらに更新時に値上げを要求されまして……。そこで移転を決めました。さらに、その数年後にまた移転をすることになり、2021年8月より現在の店舗で運営しています。
── 現在はスタイリストを募集しているのですか?
いいえ、現在は新規のスタイリストを募集していません。というのも、初期の頃から頑張ってくれているアシスタントたちを、スタイリストデビューさせているんです。長年一緒に働いている子たちが、売れっ子スタイリストに成長していくのはうれしいものですよ。
── スタッフのポテンシャルを活かすために、接し方で意識していることはありますか?
スタッフとコミュニケーションの機会を多くとることで、お互いの信頼感を高めるようにしています。
実は、最初に日本でサロンを始めた頃、韓国人に接するのと同じ様に、スタッフに対してストレートな言葉で指摘をしていました。その結果、ドン引きされてしまって……。いまは伝えたいことがあるときは、一度頭の中で考えて、やわらかい表現で伝えるようにしています。
また、一般的に韓国のヘアサロンでは、社長とアシスタントの距離は遠いものですが、ゴニ トウキョウではアシスタント一人ひとりと、1対1で話をする機会を設けているんですよ。そのおかげか、スタッフとはまるで友達のように親しい関係を築けています。
⑦韓流ヘアサロンを全国に広めたい
── 最近は、韓国のヘアサロン経営から手を引き、日本に拠点を移されたそうですね。その理由はなんでしょうか?
いま私は韓国の年で40歳です(日本の39歳)。これまでさまざまな事業を運営して走り続けてきましたが、これを機に初心に返って、専念したいものを絞りたいと考えたんです。商品販売やサロンなど、やりたいことはいくつもありましたが、日本のサロンに集中しようと決意しました。
というのも、2020年から始まったコロナ禍で、私が約2年間も来日できない事態にありましたが、日本スタッフのがんばりのおかげでサロンの売り上げを保ってくれました。その恩返しがしたいと思ったんです。
──日本に根を張るということですね。今後、挑戦してみたいことはありますか?
実は、スキンケアやエステの事業も視野に入れています。ヘアサロンだけではなく、美容全般のサービスができればいいなと。先ほど一つの事業に集中したいと宣言したばかりですが、おもしろい人とのつながりやアイデアがあってやりたいことは増えています 笑
あとは、有名スタイリストをゲストに呼んだアカデミー開催もしてみたいですね。韓流スター専属の一流スタイリストから学べることは多いと思います。
──最後に、ゴニ トウキョウが目指す未来について教えてください。
5年前にサロンがオープンしてから共に歩んできたスタッフたちは、すごく大事な友達のような存在です。彼ら彼女ら一人ひとりがスタイリストとして成長して独立し、サロンの店舗が増え、いずれは東京以外にも進出できると良いなと思っています。何年先になるかはわかりませんが、実現できるようにがんばります。
Gunhee(ゴニ)
GUNHEE,INC.代表/スタイリスト
大元大学ヘアメイクコーディネート科を卒業後、26歳でスタイリストデビュー。29歳で韓国・清潭洞(チョンダムドン)にヘアサロン「The J Hair Make-up 」をオープンし、Super Juniorのキム・ヒチョルなど数々の有名人の専属ヘアスタイリストとなる。テレビ番組や雑誌、セミナーなど幅広く活動中。Instagramフォロワーは45万人超え。2017年、韓国の最新美容やヘアを提案するトータルビューティーサロン「GUNHEE TOKYO(ゴニ トウキョウ)」を日本にオープン。
▽Instagram=@gunheenim
取材・編集/杉野碧 文/渡辺まりこ 撮影/漆戸美保 ※プロフィール写真やヒチョルさんとの写真はGUNHEE TOKYO提供