美容室という場所の可能性と課題

全国に約20万軒存在する美容室。その特性は、必ずリアルでの接点があること。定期的に訪れ、一定時間滞在する必要がある美容室という“場”の可能性は、デジタル化が進むほど注目されている。

少子高齢化やセルフケア思考の高まりによって、顧客の店販購入は美容室にとって重要な収入源となっている。矢野経済研究所の調べによると、国内のヘアケア市場は、コロナ禍の影響を受けた2020年を除き拡大傾向にあり、今後も成長が見込まれる。

一方で、ヘアケア商品の購入場所としての美容室に、顧客は「ものたりなさ」や「買いづらさ」を感じていることも、ミルボンの独自調査でわかった。

７割を超えるお客さまが「自分にあったヘアケア方法を教えて欲しい」、約６割のお客さまが「美容室でヘアケア商品を買いにくいと思う」と回答している。

最近は、美容にくわしいお客さまも多い。美容師には、そのようなお客さまの相談にきちんと答えられる専門性が、これまで以上に求められている。

また、ヘアスタイルをチェンジするタイミングと、ヘアケア商品を購入するタイミングは必ずしも一致しない。サロンのみの販売では顧客が欲しい商品をリピートしづらいといった課題もあった。

「ものたりなさ」を「楽しさ」に

「お客さま自身のタイミングで、納得して商品を購入できるように」。その想いから2年半前に生まれたのが、「milbon:iD」だ。美容室で対面カウンセリングを受けた顧客のみが利用できるECサイトで、現在、45万人がこの「milbon:iD」を利用している。

美容室専売品のミルボン商品を自宅から購入できるだけでなく、使用方法や購入履歴の確認も可能。「スマートサロン」は、この「milbon:iD」を土台としている。

美容室での新たな体験価値の創出

「スマートサロン」では、専門知識を持ったサロンスタッフが顧客に寄り添いながら、店舗でもネットでもショッピング体験を提供する。商品を購入する前には、香りや使用感を試すこともできる。

ミルボンは今後、ヘアケアだけではなくコスメ、ビューティヘルスケアなど、美を軸とした美容室サービス「ビューティーライフケア」を拡充していく予定。さらに、美容室での新たなビューティーサービスの開発も進めていくという。

「2026年には全国100都市へ」（ミルボン・佐藤社長）

全国初の「スマートサロン」として誕生した「MINX Shibuya Smart Salon」に続き、2月には大阪、北九州、その後も順次、全国でオープン予定。2026年には、100都市で500～1000軒展開していくことを目標としている。

記者会見の席上、佐藤社長は「リアルの場の強みを生かしつつ、デジタルを活用していけば、美容室は地域社会におけるビューティープラットフォームになる可能性がある。『スマートサロン』を通じ、美容室の新たなあり方について改革を推進していきたい」と語った。

「新たなビューティー文化を発信」（MINX・高橋会長）

また、MINXを運営するMINXworldの高橋マサトモ会長は、会見でスマートサロンへの期待と意欲を示した。

100坪という広さの「MINX Shibuya Smart Salon」は、うち30坪がスマートサロンの核となる店販スペース。店舗の場所を渋谷に決めたきっかけは「大規模開発と数々のブランドショップの出店が進む渋谷の街に将来性を感じたから」だという。

高橋会長は「商品を購入する前に、美容室で香りや使用感を試すことができるのは画期的。『MINX Shibuya Smart Salon』を通じて、新しいビューティー体験を提供し、新たなビューティー文化を発信したい」と語った。

編集／大徳明子、佐藤友美　文／林美帆子