カテゴリー: 特集・インタビュー

型破りを貫く! 西荻窪音楽美容室 DON’T 希世美さん Jobシンガー・missatoが行く(4)

「働く人に寄りそって曲をつくり歌います」

photo by Miho Urushido

こんにちは。Jobシンガーのmissato(みさと)です。

Jobシンガーとして、実際に現場を見学し、時にはいっしょに作業を体験し、自分でインタビューを行い、職業の曲をつくり歌う活動をしています。少しずつ曲数も増え、今は「美容師の歌」「保育者の歌」「タクシー運転手の歌」など11曲になりました。

この活動を通して、「働くこと」を軸に、さまざまな価値観を学んでいきたいと思っています。

今回の音楽好き美容師・希世美さん

笑顔がチャーミングな希世美さん

希世美
きよみ/西荻窪音楽美容室 DON’T 店長
都内の美容室にて2年間修業した後、25歳で独立。ハサミで仕上げる刈り上げなど繊細なカットが得意。趣味はライブ巡りで、ライブハウスで踊るのが大好き。二児の母親としても忙しい日々を過ごす。
▽Instagram=https://www.instagram.com/dondont8

西荻窪音楽美容室 DON’T
西荻窪駅から徒歩4分。リラックスして施術を受けられる「自然で自由な空間づくり」をモットーにしている。
▽住所=杉並区西荻北3-12-4
▽公式サイト=https://kiyomidont.wordpress.com/

美容師になったきっかけ

小さいころから「美」への興味がありました。クラシックバレエを11年間習っていたので、「美しく魅せる」ことについて、貪欲に追い求めてきたと思います。

犬の美容師・トリマーに憧れていた時期もありましたが、本格的に進路を決めたのは高校2年生のころ。美容師に路線変更しました。

というのも、昔から美容室には苦手意識を感じていて……。何度も同じ話をさせられたり、子どもだからとマッサージしてもらえなかったり。いかにもマニュアルに沿った対応で、お客さんを正面から見ない姿勢が不満でした。

だったら自分の理想の美容室をつくってみたいなと思ったんです。

自分のお店を持つと決めていた

小学校低学年のころから、将来「何になるか」より「何のお店を持つか」が重要でした。だから、美容師になってから途中で独立したいと思い始めたのではなく、はじめからお店を持つことが大前提。

目標は「25歳までに自分の店を持つ」。その目標を叶えるためにひたすら走ることを決めました。

店内の受付の様子
カウンターに置かれた、知人が描いてくれたという希世美さんの似顔絵
よく特徴を捉えています

やりたいことには賞味期限がある

キャリアのスタートとして選んだのは、三鷹の美容室です。店長には2年後に独立を考えていると伝えたうえで、入社しました。

そのころは、いかに最短で技術を身につけるかを徹底的に考えていましたね。やりたくない、できないではなく、とにかく「やる」。ストイックに仕事をしていたんです。

就職して2年で独立すると決めていた理由は、美容師としての情熱が一番高まっている時期に、あらゆる人の髪を切って、あらゆる人をキレイにしてあげたいと考えていたからです。

私が年を重ねて技術も身についたころには、もしかすると「別に独立しなくてもいいかな…」と思うかもしれない。

だったら「やりたい、挑戦したい」という情熱が燃えているタイミングで、自分の店を持つべきだと考えたんです。

シャンプー台の横にはレコードが並ぶ
赤を基調としたスタイリッシュな店内

ライブハウスでモデハン

独立した時に、お客さんについてきてほしいので、ちゃんと戦略も考えていました。

私が将来オープンする美容院の立地は、ライブハウスがたくさんある西荻窪や高円寺、阿佐ヶ谷あたりの中央線沿い。2、3駅くらい隣のエリアであれば、常連さんたちがついてきてくれるかなぁと思ったので、最初のサロンは三鷹にしました。

あとは、奇抜な髪型に挑戦したかったので、同期が駅前でモデハン(モデルハンティング)する中、私はライブハウスで若いバンドマンに声をかけていました。

奇抜なヘアスタイルもお手の物
もちろんベーシックな髪型もオーダーできます

開店資金を貯める必要があるので、節約にも気をつけていましたね。自分の店を持つまでは実家に住ませてほしいと親に頼みこんで、稼いだお金はほとんど独立資金として貯めていたんです。

自分の美容室をオープンするために、あらゆる準備を整えて。実際に叶えているのが素敵!

独立について、働き先の美容室の店長や先輩は応援してくれました。人に恵まれ、良い環境だったとは思います。

でも、雇われて働くのがどうしても苦しかったんです。私の思い描く心地よい美容室の姿とは違うんですよ。

お客さんの中には、施術中に話しかけられたくない人もいるし、スタイリング剤の購入を勧められるのを嫌がる人もいます。だけど店のマニュアル通りの対応をしなきゃならない……。

我慢することは多かったけど、理解ある先輩が支えてくれましたし、「いま私は雇われているんだ」と自分に言い聞かせていました。そして「自分の店を持ったら、最高に安心してリラックスできる美容室をつくるんだ!」と自らを奮い立たせていたんです。

独立のためのアイデアノートに書いていた「やりたいことリスト」は、どんどん増えていきましたね。

用意周到な希世美さん。今回のインタビューでも、メモでいっぱいのノートを持参してくれました

DON’Tの由来

三鷹の美容室に就職してから2年後、宣言通りに自分の美容室をオープンすることができました。店名は「西荻窪音楽美容室 DON’T」です。

ちょっと変わった店名ですよね? よく言われます。

西荻窪という街と音楽が好きなので、あえて店名にも入れました。“にしおぎ”の人は、ユーモアのある人が多いので、自分のやることを面白がってくれるだろうなと思っています。

温かみのある手書きのブラックボードが印象的
店内には希世美さんおすすめのCDやDVDが。音楽のラインナップは幅広いです

「DON’T」は私の好きなバンド「ボ・ガンボス」のボーカル・どんとさんのお名前からいただきました。彼は、めちゃくちゃ陽気な人柄で、自分の殻を破っているのが魅力的なんです。

入口のマットレス。希世美さんのモットーが刻まれています

そして、これは後付けなんですけど、「Don’t」は私のモットーとも深く関わっているんです。

「Do not have a sad face. I make it to a wonderful hair. 」

意味は「悲しい顔をしないでおくれ。私が素敵な髪型にしてあげるから」。

お客さんに安心して来てもらえるような美容室をめざして、こんな想いも店名に込めています。

忘れられないお客さま

髪の毛を触られるのが苦手なお客さま

とあるお客さんに、とても印象的な言葉をいただきました。

「あんたが死んだらどこで髪を切ったらいいか分からない。だから、死なないでね」って言われたんです。

その人は、他人に髪の毛を触られるのがイヤで、私以外の人には触れられたくないそうです。私を美容師として選び、本当に信頼してくれているんだなと、うれしい気持ちが込み上げてきました。

私はやりたいことをしているだけで、お客さんから受け取ることばかりだなぁと思いますね。

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「無理して会話する必要はない」

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