── 次に、福井社長のもとで生まれ、今日の主力となっているロレッタとスロウについておうかがいします。どちらも、それまでの企業イメージを大きく変えたブランドですが、どのように生まれたのでしょうか?
私に代替わりしてガラッと変わったのは、ものごとの進め方だと思います。先代は超ワンマン社長。全部自分でつくる人だったので、役員会も開かなかった。その結果、同じようなデザインのものばかり増えてしまっていました。
── 私が初めて御社におじゃましたのは2005年、まだ本社が西早稲田にあったころです。馬油クリームにはシンプルな馬のイラストが入っているという具合で、正直に申し上げると、デザインはあまり重視されていないのかなという印象を受けました。
当時は「中身はいいけど、デザインがいまいちだし、においもちょっとね」と言われたりもして、そこは絶対に改善したいと思っていました。マーケティングを取り入れ、メーカー視点のモノづくりではなく、サロンと共創する現場目線のモノづくりで生まれたのが、2009年発売の「ロレッタ」です。
ロレッタの発売は、この20年でもっとも大きな出来事かもしれません。このあたりから会社が変わったと思います。
── 化粧品は入れ替わりの激しい市場ですが、ロレッタは発売から10年以上ずっと人気ブランドの座をゆずりません。その理由をどうお考えですか?
それまでヘアスタイリング剤はシンプルな見た目の商品が多かったところに、イラストレーターが手がけたかわいいパッケージデザインのロレッタが登場した。見た目だけでなく中身もにおいもよかった。これが刺さり、そして今も刺さり続けているのだと思います。
── 印象に残る世界観はロレッタの魅力ですね。新製品発表会の会場がロレッタそのままの絵本のような世界観でお土産には絵本をいただいたこと、10年ちかく経っても覚えています。
ロレッタは、一度好きになった方がずっと好きでいてくれるというところがあります。
発売当時に20代だった方が30代、40代になっても愛用してくださっているというブランドです。
── 同じく看板商品となった「スロウ」はどのように生まれたのでしょうか? “外国人風のアッシュを実現するヘアカラー”というのはかなり絞りこんだコンセプトですが。
スタイリングもヘアカラーも元々シェアが取れていなかったんです。だからこそ、逆にいろいろチャレンジしてみようと。大がかりにすると失敗しがちなので、小さくニッチなところを攻めました。
── 開発だけでなく情報発信もサロンと共に行っていますよね。美容師さんがヘアカラーレシピなどの記事を投稿するスロウジャーナル(現・b-ex journal)は画期的でした。
スロウジャーナルを立ち上げた2016年当時は、木村直人さんの影響もあって美容師さんのブログへの関心が高まっていました。インスタグラムなどのSNS集客が広まる前でしたが、スロウジャーナルがきっかけで新規のお客さまが来店するといったこともあったそうです。
コロナの前までは毎年、執筆いただいている美容師さんがリアルに集まって木村さんのお話を聞くというライターサミットを開いていました。
社名変更を機に、スロウジャーナルからb-ex journalとなり、ヘアカラーだけでなく、ヘアケアやスタイリング剤にも記事のカテゴリーが広がっています。
── 海外事業でも、スロウの存在感が増しているそうですね。
2022年に出したスロウの新ラインでは、初めて日本、韓国、タイの3カ国同時発売をしました。
いまはSNSを見るので、「どうして日本では売っているのにこっちは待たなくちゃいけないんだ」と思われてしまいますよね。iPhoneが世界同時に発売されるようにとまではいきませんが、スロウに限らず他のブランドもあわせ、海外での展開を強化していきたいと考えています。
── b-ex journalは美容師さんからお客さまへの情報発信ですが、美容師さんから学びたい美容師さんへの発信についても、2020年春に会員制動画教育サービス「b-ex palette」をスタートされています。手ごたえはいかがですか?
「b-ex palette」は2019年くらいから準備していたのですが、コロナでデジタル化が加速してスタートが早まりました。利用者数は5500人を超え、ほぼ計画通り。当社の強みになっています。
一方、サブスクプランの利用者を増やしたり、メーカー提供ならではの独自性を強めたりすることが必要です。b-ex palette、b-ex journalとも戦略を再構築し、中長期のデジタルフロー化計画の中核にしていきたいと考えています。
── その一環で、アプリやLINE公式アカウントに入り口をまとめられたのですね。
2020年12月にアプリをリリースし、2022年7月にはLINE公式アカウントを開設したことで、それぞれを入り口にb-ex paletteやb-ex journalへアクセスできるようになりました。
「b-exアプリ」のダウンロード数、LINE公式アカウント「b-ex professional」の友だちはどちらも4000を超えています。
分散されていた各種デジタルサポートコンテンツをシームレスに利用でき、包括的にフォローできるということは、ミッションである「美の体験」の価値向上であり、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進です。
── デジタル化が遅れていると言われる美容業界で、いち早く2017年にデジタル化を掲げられただけに取り組みも多様ですね。社内業務も効率化を図っているそうですが。
リモートワークができる環境は、コロナの前からあります。産休明けの社員が在宅勤務できるようにと始めたのですが、結果的にケーススタディになりました。
経費精算についても、自分が営業の現場にいた時から、いちいち会社に行って領収書を出すのは非効率だと思っていたのでデジタル化しました。
効率化できるものはして、社員にはその分の時間を美容師さんのために使ってほしい。以前よりも、社員一人当たりの生産性が上がっています。
今回の前編では、社長就任から主力ブランドの立ち上げ、CIの制定、デジタル化の推進についてお話いただきました。明日公開の後編では、クリーンビューティーブランドやSDGsの取り組み、コンシューマー向けブランドの整理などについてうかがいます。
福井 敏浩
ふくいとしひろ
株式会社b-ex 代表取締役社長
1969年生まれ、東京都出身。米国ボストンの大学で経営学を学んだ後、父が起業した株式会社モルトベーネに入社。2001年、父の急逝により、31歳の若さで社長に就任。その後、早稲田大学大学院商学研究科でMBA(ビジネス専攻)を取得。「ロレッタ」「スロウ」など、独自の世界観と革新的なデザインでヒット商品を次々に生み出し、成長を続けている。2015年、創業40周年を機に、株式会社モルトベーネから株式会社ビューティーエクスペリエンスに社名変更。2021年に略称である株式会社b-ex(ビーエックス)に社名変更。
取材・編集・文/大徳明子 撮影/渡部実加子
Page: 1 2